木曽町福島よし彦本店の地下、漆の匂いが常に漂う作業場は、足をいれたとたんに張り詰めた空気に緊張感さへ漂います。
頑固であること・・・良質な木と漆・この二つにこだわり続けよし彦のうるし工房は160年製品を世におくりだしてまいりました。
江戸時代末期の万延元年(1860年)中仙道の宿場町として栄えた木曽福島町(現木曽町福島)に、製造卸問屋としてよし彦が誕生して以来、漆を塗り重ねるように時を重ね創業以来160年がたちました。
「伝統工芸を守ってきたという意識はない」と言う五代目彦助は常にお客様が使いやすいこと、安全安心な製品をお届けすることを頑固なまでに日々続けてまいりました。
よし彦は山また山の木曽路の片隅で、日々のささやかな仕事を続けてまいりました。
いつのまにか漆器の仕事を生業とさせていただいて160年、その間、時代の激しい変遷がありました。戦争による材料不足、”便利さ”ということが最優先の使い捨て時代、様々な時代も、ただ日々木と漆の声を聞きながら今日まで、同じ気持ちで仕事をしてまいりました。
思わぬ賞をいただいたこともございます、支えていただいたお客様と多くの職人さんへ感謝の気持ちをこめてご紹介させていただきます。
漆器の技法のひとつ「すり漆」うるしの木から採った漆そのものを木の肌にすり込むという塗り方です。 簡単そうですが、同じ工程を10回以上繰り返し、その間乾かしては塗るという作業をつづける根気のいる手作業です。 |
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知ればしるほど漆という塗料の不思議さが分かってきます。 「湿度が高くないと乾かない」という性質もそのひとつ、もちろんホコリも厳禁です。 そのため作業場にあるのが風呂(フロ)ですこの中に霧をふいて湿らせ、湿度を高くし(80パーセントほど)塗りあがった製品を入れて乾かします。 何回かこの工程を繰り返します。 |
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明治時代からよし彦うるし工房で使われてきた、製品を乾かすときに使う「渡し板」です。表目についている漆は先代彦助のものかそれとも先々代のものでしょうか。 | |
漆を塗る刷毛に最適なのは、女性の髪の毛だそうです。 艶やかにしあげるためと、強い塗料の漆は粘度が高く、力がいる場合もあるためです。この刷毛も昭和初期からのものです。 |
「決して手を抜かないこと、ごまかさないこと」
吉田屋・彦助を縮めて「吉彦」→「よし彦」に店名が生まれました。彦助という世襲名になってから50年近く、プラスチック製品の台頭などがありましたが、「いいものを作り続ければ必ず分かっていただける」という気持ちで安心と信頼をいただいてまいりました。
漆を入れている陶器の鉢。 通常は油紙などで空気を遮断して漆が乾燥しないようにしておく。 |
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漆自体は無色ですが、空気に触れると酸化するため茶色く変色します。(リンゴなどと同じです) このため漆は顔料を混ぜて使った場合も発色までに時間がかかります。 漆は大変貴重なものです、一滴とておろそかにはできません。 |
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漆器の手仕事はとても静かな作業です。 火を使ったり、大きな音をたてたり、派手なパフォーマンスもありません。そこには、木と漆と向き合う人の姿があるだけです。 |